前回のコラムでは、ストレスチェック義務化の具体的内容とそのメリットについてお話ししました。今回は義務化後に想定される問題点について考えてみます。いろいろ混乱が予想されますが、特に気になる課題として以下の4点がありそうです。
1.誰がストレスチェックを行い、どのように個人情報を管理するか?
2.産業医面接を希望しない労働者にどう対応するか?
3.産業医面接で十分な対応ができるか?
4.「不利益扱いしない」ことをどのように担保するか?
まず1点目ですが、改正案ではストレスチェックを施行して個人情報を管理する主体として産業衛生スタッフ(産業医、保健師など)を想定しています。しかし、事業場の労働者数が50〜1000名程度の企業では、多くの場合産業医は月1〜2回程度しか訪問しておらず、保健師などの常勤スタッフもいないことが多いです。その場合、ストレスチェックの結果をどこに保管し、どのように労働者にフィードバックするかが問題となります(健診結果のように人事で管理することはプライバシー保護の観点から問題があります)。法案に基づいた適切な健康管理体制を構築するためには、多くの企業で産業衛生スタッフの増強が必要になる可能性が高いです。
第二に、ストレス反応が高いにも関わらず産業医面接を希望しない労働者に対してどう対応するか、という問題があります。法案を文字通りに解釈すれば、本人の申告がない以上、事業者は労働者に対して就業上の配慮をする必要がない、ということになりそうです。しかし、最高裁判例で「労働者からの申告がなくても、会社には精神疾患に対する配慮義務がある」としたものがあり、労務リスクは否定できないと思われます。
また、根が真面目で周囲からの評価を気にする、いわゆる典型的なメンタル不調の労働者ほど産業医面接を希望しない、という事態も予想されます。
第三に、産業医がストレスチェックの結果を適切に就業環境の改善に活かせるか、という問題があります。かなり前の調査ですが、産業医のうち、心療内科や精神科といったストレス関連疾患の専門家は10数%しかいなかった、という調査結果があります。メンタル不調に詳しくない産業医が面接しても、その結果を職場改善に十分生かせず、結局医療機関に紹介するだけ…という状況もあり得ます。
第四に、「面接の申出を理由とした不利益扱いをしてはならない」という点をどのように担保するか、という問題があります。これが十分に守られないと、マイナスの評価をされることを恐れた労働者が産業医面接を希望しなくなり、この法案の意義自体が失われてしまいます。一方で会社にとっても、例えば体調不良の労働者に休職発令をした場合に「不利益扱いをされた」と訴えられるリスクが否定できません。
これらの問題点については、今後厚生労働省が作成する指針により、一定の解決が得られるものと思います。それでも施行後しばらくの間は混乱が予想されます。人事の方は産業衛生スタッフと緊密な連携を取り、この制度を会社の活性化につなげていただければと思います。
Column記事
2014.05.02
ストレスチェック義務化について その2
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